藤澤令夫著作集〈4〉プラトン『パイドロス』註解

岩波書店

2001年刊



 プラトンの『パイドロス』に対する

 訳者の藤澤令夫先生自身による解説書。



 『パイドロス』は、≪アカデメイアの学長としての仕事も軌道に乗り、

 ライフワークともいえる『国家』を書き上げた後の、

 幸福な解放感をみることができるわけである。≫

 


 本書の話題は、

 イデア論、魂(プシュケー)論、魂の神性と不死性、

 魂を宇宙全体の「動」の根源とみる考え方、

 魂三部分説(馭者の「知的部分」、善い馬「激情的部分」、悪い馬「欲望的部分」)

 想起説(アナムネーシス)、哲学的エロース、

 等々であり、

 プラトン哲学の中心となる数々の思想が、美しい相貌のもとに定着されています。


 
 驚きだったのは、

 凛々しい青年に描かれてるパイドロスは40歳。
 
 当時、弁論作家として名声が高かったリュシアスの熱心な帰依者であったこと。

 リュシアスは、アンティポロン、イソクラテスと並んで、

 紀元前5世紀から4世紀にかけてアテナイで活動した代表的な弁論家の一人だった。

 一方のソクラテスは、60歳ぐらい。

 この二人が、一人の男が美少年に言い寄るという恋・・エロースを

 話題にしているのに!!!



≪・・肉体の美しさから精神の美しさ、

 知識や言葉の美しさといったものを経て、

 最後に「美そのもの」の認識にいたるまでの、

 その「修業」の内面的な動態はどのようなものであるか。≫



「人がこの世の美を見て、真実の<美>を想起し、

 翼を生じ、翔け上がろうと欲して羽ばたきするけれども、

 それができずに、鳥のように上の方を眺めやって、

 下界のことをなおざりにするとき、

 狂気であるとの非難を受ける」というエロース、恋の衝動・・

 この一種の狂気こそが、

 予言者や詩人のインスピレーションである。

≪・・神から授かる狂気は、

 人間的な正気の及ばぬ偉大な力をもつ・・≫






「弁論術」とは、「説得をつくり出す力」と定義される。

 相手を説得しさえすればよい、という立場に立つと、

「将来弁論家となろうとする者が学ばなければならないのは、

 ほんとうの意味での正しい事柄ではなく、

 裁き手となるべき群衆の心に正しいと思われる可能性のある事柄なのだ」ということになる。


 以降は、ソクラテスの反論になります。






<目次>
プラトン『パイドロス』註解
序説(総説―梗概、登場人物、作品の特色、執筆年代その他
弁論術(歴史的状況、リュシアス
プラトンの批判)
恋(エロース)
想起(アナムネーシス) ほか)
『パイドロス』(訳文)―美について
『パイドロス』補註
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プラトン「パイドロス」(岩波文庫)・その2

藤沢 令夫 訳



 今回のギイシャ旅行中、再読したもの。

 プラトン「パイドロス 美について」



 青年パイドロスが、当時の雄弁家のリュシアスの「反恋愛論」なるものを聞きます。

 恋をすると、人は自分を抑制できず、正気ではいられなくなります。

 多くは欲望に負けます・・つまり、狂気に陥ります。

 そして、狂気が醒めた後は、後悔がやってきます。

 狂気と正気であれば、正気の方が人間にとってよいのだから、

 正気でいるためには、人が恋愛するのは、自分が恋をしている相手ではなく、

 恋をしていない相手から選ぶべきだ、といいます。

 いかにもソフィスト的な詭弁だと思いますが、

 これに対する、ソクラテスの反論と、その方法が、本書の肝になります。





そもそも議論するにあたって注意すること・・

≪それは、論議にとりあげられている当の事柄の本質が何であるかを、

 知っておかなければいけないということだ。≫

 でも、多くの人は、物事を考え始める際、

事柄の本質を知らないという事実に気づかず、知っているものと思い込んで

議論を進めるため、かみ合わないままである。



≪話や書きものの中で取り上げるひとつひとつの事柄について、

 その真実を知ること。

 あらゆるものを本質それ自体に即して定義しうるようになること。

 定義によってまとめられた上で、こんどは逆に、それ以上分割できないところまで、

 種類ごとにこれを分割する方法を知ること。≫



「話したり考えたりする力を得るために、

 この分割と綜合という方法」が大切である。

 「分割と綜合」こそ、恋人のように大切である、と。





狂気と正気・・


 狂気は常に悪いものなのか?

≪しかしながら、実際には、われわれの身に起こる数々の善きものの中でも、

 その最も偉大なるものは、狂気を通じて生まれてくるものである。

 むろんその狂気とも、神から授かって与えられる狂気でなければならないかれども。≫


 古来から、狂気(マニアー)は、恥ずべきもの、非難すべきものではなった。 

 むしろ、何事も技術を極めるためには、狂気(マニアー)こそ必要であった。

 

 まさに、パイドロスと出会う直前、

 ソクラテスは、いつものダイモーンが降りてきた、といいます。





真実在(イデア)・・

≪・・人間の魂は、どの魂でも、生まれながらにして、真実在を観てきている。

 ・・ しかしながら、この世のものを手がかりとして、

 かの世界なる真実在を想起するということは、かならずしも、すべての魂にとって

 容易なわけではない。≫


 多くのイデアは、忘れ去られた・・


≪けれども《美》は、あのとき、それを見たわれわれの眼に燦然とかがやいていた。≫


崇高なるソクラテスの死 (プチ哲学 Les petits Platons)

ジャン・ポール・モンジャン 著
ヤン・ル=ブラ イラスト
及川 美枝 訳

ディスカヴァー・トゥエンティワン

2011年刊




 ソクラテスの生涯を描いた絵本・・と思って手に取りましたが、

 かわいらしい絵に対して、

 中身は、「ソクラテスの弁明」「クリトン」「パイドン」のエッセンスを

 盛り込んだすばらしいものでした。





≪「ほとんどの人間の魂は、ほんとうに賢くもなく、ほんとうに悪でもないが、

  死ぬと、かれらの小さなダイモーンに導かれて、不気味なアケローンの川岸に

  連れて行かれる。そこで、同類たちといっしょに小船に乗り、

  不毛の地を横切り、地下の流れに沿って、アケルシアスの沼地に運ばれる。

  かれらはしばしそこにとどまり、浄化され、それから再び生まれ変わるために、

  生者たちの間に送り返される。」≫

 神殿を略奪したような罪深い魂は、タルタロスに投げ込まれ、

 劫火の流れの火の川が彼らを運び、最悪の罪人は二度とそこから戻らない。


≪「一方、清らかな人生を送った者たちはといえば、

  小さなダイモーンがかれらを連れていくところは、深淵に向かう川ではない。

  死ぬと同時に、真の大地のすばらしい世界に上っていく。

  かれらのなかでも哲学によって完全に浄化された者たちは、

  完全に肉体から解放され、抜きん出て美しい場所に生きるのだ」≫

【送料無料】プラトンの弁明 [ 加来彰俊 ]

加来彰俊「プラトンの弁明―ギリシア哲学小論集」

岩波書店

2007年刊



 プラトンの研究者であり、主要な訳者である加来彰俊さんの論文集。
 
 以前から気になっていましたが・・2007年からなので、5年越しでした(+_+)
  
  加来彰俊「プラトンの弁明 ギリシア哲学小論集」・・・プラトンとの対話篇

 
 
 「第1章 プラトンの弁明」
 
  『ゴルギアス』論になります。
  
 

 弁論術・・
 
 説得力というものは、たとえ説得の根拠や理由が沢山あっても、
 それだけでは、必ずしも説得に成功するとはかぎらない。
 
 説得が成功するためには、それを行う人の人柄を第一として、
 話の仕方の上手下手が大いに関係する。
 
 そのための特別な技術があり、それが弁論術(レートリケー)であった。
 
 
  
 
 青年プラトンは、「人生いかに生くべきか」を悩んでいた。
  
 プラトンに対して、弁論家のゴルギアスやポロス、政治家のカリクレスが、
 
 弁論術の能力を誇示し、この術を修めて政治活動に入るよう勧めます。
 
 そこに、ソクラテスが現れて、弁論術の本性をあばき、それが「卑しい迎合の術」
 
 にすぎないことを明らかにし、真の政治家の任務が何であるかを示す。

 「・・権力も名声も財貨も、結局は、それらを所有する人自身がすぐれているのでなければ、
  何の役にも立たない・・」

 「自分たちの個人的(ないし党派的)な利益のために、国家公共のことは無視しながら、
  国民大衆をまるで子供扱いにして」いた(『弁明』)。

  
 ソクラテスは、弟子の一人であったアルキビアデスに対しても、
 
 無教養のまま国事に携わろうとしていることを徹底的に叩いています(『アルキビアデス1』)。


 「ぼくたちはそのようにして共に徳を修めてから、その上で始めて、もしそうすべきだと思われるなら、
 
  政治の仕事に乗り出すことにしよう」とソクラテスはいいます(『ゴルギアス』)。

 
  
 世俗的成功が約束されている前者の「短くて易しい道」と、後者の「長くて険しい道」を前にした
  
 『青年プラトンの選択』でした。
 
 
 
 
 
 
 「第4章 プラトンの政治論」


≪プラトン哲学の著しい特色は、

 その超越主義ないしは彼岸主義にあることはよく知らされている。≫
 
 
≪・・哲学者の生活目標は、『テアイテトス』の言葉を借りていえば、

 この世からかの世へ「逃げること」だということになる。≫
  

≪しかしながら、プラトン哲学は、たんに超越を強調するだけのものではなく、

 同時にまた、内在の面をも重視するものなのである。
 
 すなわち、この世のものを否定し、この世から離脱し、かの世界にあこがれるというだけではなく、
 
 反対に、この世のものを大切にし、この世を救うという一面が、プラトン哲学にはあるのである。≫
 
 

≪・・プラトンにおいては、哲学と政治とは、相互に批判し合う関係にありながら、

 一体となるべきものと考えられていた、と言ってよいだろう。≫
 
 哲学は、現実社会からたえず厳しい批判にさらされながら、真の哲学にならず、
 
 現実の政治の方も、つねに哲学の側から原理的な反省を受けることによって、あるべき真の政治へ
 
 浄化されなければならない、と考えていた。

 
 



<目次>
1 プラトンの弁明
(『ゴルギアス』について)
2 正義と善との間に
(正義論の原形―古代ギリシアの場合
プラトンの正義論―「自分のことをすること」について
プラトンの政治論―哲学との関係において ほか)
3 個人と共同性との間に
(パイデイアーの系譜―古代ギリシア・ローマの伝統
自由の古典的理解
歴史記述の客観性―トゥキュディデスのなかの「演説」をめぐって)



ソクラテスとプラトン・・・「プラトン全集」




【送料無料】ソクラテスの最後の晩餐

塚田孝雄「ソクラテスの最後の晩餐―古代ギリシャ細見」(ちくまプリマーブックス)

筑摩書房

2002年刊


 本書、古代ギリシャの世界を、見てきたかのように語ることを目指しています。
 
 ギリシャのポリスの中で、一番大きかったのはアテネですが、
 最盛期でも30万人程度。その内、3分の1は奴隷だった。

 二番目のスパルタにいたっては、市民9千人、家族1万5千人、奴隷身分のヘイロタイ
 が5万人、周辺住民のぺリオイコイが10万人だった。

 人口が少なく、みな顔見知りだと、他人の良いところだけでなく粗も沢山わかってしまう。
 その結果、直接民主制になった。


 また、どのポリスも、生産力に乏しかったため、
 生活苦による嬰児殺が多かった。特に、スパルタは部族の長老による厳しい検査があり、
 国の役に立たないと思われた赤ん坊は、川に捨てられるか獣の餌食となった。
 その結果、スパルタの人口は、千人にまで激減した。
 嬰児殺は、ギリシャ・ローマ時代の汚点の一つになっている。
  



 ところで、
 ソクラテスの最後の晩餐の中身は・・

 第一のご馳走は、ウナギ! コパイス湖の大ウナギ

 続いて、マグロ、ロブスター、アナゴ、ウニ、ハマグリ、ウツボ、タコ・・

 そして、ワイン

 でしたڤ


 悪妻の代名詞となっているクサンティッペ・・ですが、

 3人の子どもをかかえているのに、生活力がまるでない70歳の老人
 の世話をしており、・・なかなかよくできた人だったのかもしれません。



<目次>
古代ギリシャへようこそ
サカナ喰いのギリシャ人
アテネの結婚式
女部屋の生活
知恵の教師
プラトンの学園
アカデミア宗教結社説
季節はめぐる
時のはかりかた
浄化としての祭
悲劇と喜劇
絵画対決
オリュンピア競技
陶片追放
ソクラテス裁判
ソクラテス最後の一日
おしまいに―アテネの学堂



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