宮田秀明「アメリカズ・カップ レーシングヨットの先端技術」


 2000年のアメリカズ・カップのテクニカル・ディレクターの宮田秀明さんの本。


 2000年の大会に先立つ、1995年のアメリカズ・カップに、

 途中から参画した宮田さんが記したこの大会のドキュメンタリー。



○アメリカズ・カップが技術開発プロジェクトとなった瞬間

 アメリカズ・カップが、「経験豊かなデザイナーとスキッパー」中心のレースから

 技術力も含めた総力戦に変わったのは、

 1992年の大会に、工学博士の肩書きを持つアメリカの実業家ビル・コークの参戦による。

 彼の率いる「アメリカ・キューブ」のチームの艇の「開発・設計には、

 アメリカの航空宇宙技術や複合材料技術など船舶工学以外の多くの技術も導入された。

 のちにビル・コークが「艇速は科学だ」と言い放ったように、

 役に立つ技術はすべて利用して、考えられる最高のものを作り出そうとしたのである。

 その結果、いまだかつてない大規模かつ組織的な技術開発プロジェクトとなった。」



○ニッポンの敗因

 「1995年のニッポンの敗北を一番に象徴するのは、

 このような設計上の「迷い」だった。」

 
 設計者の意図が、クルーに十分に伝わらず反対にあい、

 設計方針の変更が余儀なくされたこと。

 その結果、その後の開発プログラムに乱れを生じさせた。

 「こうした「迷い」を招いてしまった背景には、

 技術陣とクルーとの意思疎通の不足、

 艇のイメージに対する双方の共通理解が得られなかったことなど、

 つまりはAC艇開発をスムーズに行えるだけの組織づくりが、

 ついにできなかったことがある。」



○技術の文化を育てたい

「・・オークランドではウィトブレッド世界一周ヨットレースで修理中の

 ヨットのキールを見学するために、市民がひっきりなしにキャンプを訪れる。

 ロサンジェルスでは、定年退職後の老人が、一人で人力水中翼船を作って

 レースにのぞむ。

 書店には、飛行機や船の分厚い一般向けの技術書が並んでいる・・・。

 アメリカズ・カップはこうした市民たちの好奇心や関心にささえられている。


 アメリカズ・カップでニッポンが勝利するということをこえて、

 私はこの伝統あるヨットレースに参加することを通じて、

 日本にもこのような「技術の文化」ともいうべきものを育てたいと思う。・・


 だから「先端技術」「技術開発」という言葉をあまり難しく受け取らないでほしい。

 ハイテクヨットの開発といっても、それは「なんとか工夫して、いまよりも

 早く走らせたい」「他の誰も作ったことのないようなものを作りたい」という意味では

 何も特別なことではないのである。

 「なぜこうなるのだろう?」「どうしたらもっとよくなるのだろう?」という、

 ごく普通の素朴な気持ちにささえられた人間の営みのひとつなのだから。・・」



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アメリカズカップのテクノロジー

宮田秀明「アメリカズカップのテクノロジー」

 
○3S+S

 これからの技術における、重要なキーワードとして、

 3つのSと、もう一つのSを指摘されています。

 Science  サイエンス

 Synthesis シンセンス

 Society  社会   

 これに、

 Spirit   情熱 

 
「科学的な発見や進歩は、一番根本的な進歩をもたらす。

 もし科学的な進歩がなくても、構想力による総合化(シンセンス)によって

 新しいシステムが創出されてくることも多い。

 そして、どの場合も、それらが社会(ソサエティー)にとって有益なものかを

 吟味し、社会のニーズから発生するものを常に追求しなければならない。

 最後に、情熱(スピリット)は、すべてを動かす原動力である」と。 
 

 シンセンス・・・一番大切だと思いますが、

 サイエンス・・要素技術をマスターした上でのお話しなので、

 道険し、の心境です。




理系の経営学


宮田秀明「理系の経営学」


○トップガンの組織形態


「最も活力ある組織を作って経営し、その活動を最大出力にする能力を

 リーダーシップという。

 人と物的資源と知的資源の選択、

 人と時間と資金の配分が任務の大変を占める。

 なかでも人の選択と配分は最重要課題である。

 能力ある人を集め、その能力を最大限発揮させるだけでなく

 仕事を通して大きく成長させなければならない。

 仕事の内容が進歩したり、いろいろなシステムが生まれ変わったり、

 技術革新が成功したりしたとき、その担当者も同時に成長しているものだ。

 このように組織のメンバーの能力が伸びつつ、組織の成果が得られるときは、

 その組織のキャパシティが最大出力に向っているといえる。」



 ここでは、通常のマネジメントではなく、

 イノベーションのためのマネジメントを対象にする組織に対して、

 スカンクワークスの形態を提案します。


「すべての組織が創造的で、仕事がすべてプロジェクト的に行われるなら、

 その組織は10~15人のスカンクワークスを基本単位にするのがいいだろう。

 スカンクワークスは、能力差の少ない優秀なメンバーによって構成された

 小規模のプロジェクトチームである。」

 スカンクワークス・・もともとは、ボーイング社の新型の軍事戦闘機・・

 ステルスを開発したプロジェクトチームが起源であるが、

 現在は、新商品・新サービスの開発チームにもお勧め。


 スカンクワークスのチーム構造の利点

 1.運用効率

 2.相互啓発

 3.全体像の共有

 4.ハーモニー

 5.柔軟さ

 6.変化と成長


 スカンクワークスには、「少数だからこそ精鋭化する」という言葉が

 そのままあてはまっています。
  



理系の経営学

宮田秀明「理系の経営学」


○ITと経営の関係

「ITが経営を助けてくれる - といったように、

 ITを単なるツール以上にしか見ないと、経営改革は成功しない。

 ITは経営システムを根本的に変えるものだと理解しなければならない。

 
 CIOが経営にどのように関与するかは重要なポイントである。

 メインフレーム・コンピュータの導入が始まった25年前の電算化推進担当役員

 と現在のCIOを同じ位置づけで考えるのは、間違いである。

 この間にITの能力と可能性は少なくとも1万倍は拡大しているのである。

 ITは有機体として組織のインフラを根底から変えてこそ

 価値のあるものになる。」



「技術は単に経営を助けるものではない。

 経営を技術とが一体化して有機体としての組織に活力を生み出さなければならない。

 場合によっては技術をITと読み替えてもいいだろう。

 ITは単に経営を助けるものではない。

 ITは経営そのものをシステムとして変革する技術である。」
 


アメリカズカップのテクノロジー


宮田秀明「アメリカズカップのテクノロジー」


 宮田さんのアメリカズカップへのチャレンジの様子は、

 先日の講演内容の紹介でもしましたが、

 宮田秀明「挑戦プロジェクトと科学的マネジメント」・・・「アメリカズ・カップ」へのチャレンジを通して

 改めて、本書を手に取りました。


 印象的な出来事・・


 セリング・チームの人選の際、

 外国人との混成チームとするか、日本人だけのチームにするか、がポイントとなる。

 前回の1995年大会は、大半が外国人だった。

  「チームワークの面からは、半分以上を外国人にするか、

   またはゼロにするかどちらかです。」

  セリング・ディレクターのギルモアはこう言った。

  「日本人だけのチームにしましょう。
 
   私が日本人になります。」と。


 独創的なデザイン・・

 「競争相手が、そろって、私たちと異なったデザインを採用した艇であるのは、

  思ったより、心理的にしんどいものだった。

  正しくできていても、異端であることは精神的なプレッシャーになる。」

  でも、唯一、前回優勝したチーム・ニュージーランドの艇と似ていることが

  心強かった、と。


 セミ・ファイナル敗退の原因・・

 「ニッポンが負けるのはタクティシャンがいないからだよ。」

 と、他チームの評価。

 「どんな試合にも情報戦がある。プロ野球にも、ID野球がある。

  複雑で変化の激しいオークランドの海では、風の情報獲得と、

  それをもとにしたレース戦略が大変重要である。」

  他の艇では、

   スキッパー(艇長)は、舵に集中し、

   タクティシャンは、戦略を決め、

   ストラテジストは、しばしばマストに登って風を観測する。

   タクティシャンとストラテジストは、有線マイクをつなげ、

   時々刻々変化する風の情報を議論しながらコースを決める。

  一方、日本は、

   タクティシャンもストラテジストもいない。
   
   スキッパーのギルモアが、舵をとって、コースも決め、指示を出した。

  ギルモアの孤軍奮闘にもかかわらず、

  その結果は、風が複雑な日のレースは、ことごとく負けた。

   
 日本は、最速といわれた「阿修羅」と「韋駄天」の2艇を擁しながら、
   
 結果を出すマネジメントに失敗した、と総括されていました。
 



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