伊藤整「近代日本の文学史」





 荒川洋治さんお薦めの伊藤整さんの「近代日本の文学史」。

 荒川洋治「黙読の山」 ・・文学史の名著



 期待通り、素晴らしいです。


 1958年、カッパブックスから発売されたものの復刻版ですが、

 日本の文壇がその当時に終わりを迎えているので、明治以降の日本文学史全体を

 俯瞰することができます。


江戸末期の様相・・

≪・・二百年ほどつづいた窒息的な鎖国政策のために、この1820年前後から後、

 日本の社会は急激に腐敗しはじめた。

 芸術作品もまた、前代の作家たちの真似ごとをくりかえすものばかりが多くなった。≫

 武士は、模倣にすぎない漢文や漢詩をつくり、儒教思想を批判する思想を持たず、

 庶民出身の作家は、商業的に盛んになると、制作態度は安易になった。


 

福沢諭吉・・

≪・・彼の自伝「福翁自伝」は、今なお、溌剌たる生命を持っている文学作品であり、

 近代日本人の書いた自伝として最大の傑作である。≫





≪日本の近代文学の特色として、笑いによる社会批評が行われないという点は、

 くりかえして指摘されてきたことである。・・

 批評としての笑い、ユーモアは、近代ヨーロッパ文学の大きな礎石である。≫



≪明治時代においては、文士となることは、いわば社会人としての地位を失うことであり、

 大正期においても、文士になるのは、反道徳人となり、社会の落伍者たることを自認
 するようなものであった。

 しかし、戦後においては、文士となることは、いわばはなやかな出世をすることであり、

 収入の多い、名声をともなう地位を手に入れることになった。≫



ところで、旅好きの作家の代表は、

 意外にも、幸田露伴でした。

 電信技手になり、北海道の余市で働き、

 北海道から帰るとき、本州の北端の青森から東京まで、全旅程の大部分を歩いた、といいます。

 また初めての小説「露団々」の原稿料が前金ではいると、

 信州から京都、大阪、奈良へ旅行する。

 新作を依頼されると、日光の温泉で、書き始める、といったように。


 島崎藤村も、女学校の教え子との恋に破れ、教師を辞め、巡礼のように関西から四国まで放浪する。

 その後、教師に戻るが、さきの教え子が結婚後まもなく亡くなったことを知り、

 再び教職を辞します。
 




次は、『日本文壇史』ですね!












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荒川洋治「読むので思う」

幻戯書房

2008年刊



 
 北村太郎『光が射してくる 未刊行詩とエッセイ1946-1992』



《「読書によって心が広くなるより、狭くなる人の方が多い」》

《自分の好きなものしか読まないなど、

「一つの小説の型、考え方の型、生き方の型、美の型だけにしがみついて、

 それ以外のものを認めようとしない」人になる危険があるというのである。》

《「わたしたちの『ことば』が、現在のように混乱しているのは、
 
  単に『ことば』そのものだけのせいではない」》






「読むので思う」・・

《本を読むと、何かを思う。

 本など読まなくても、思えることはいくつかある。

 だが本を読まなかったら思わないことはたくさんある。


 人が書いた作品のことがらやできごとはこちらには知らない色やかたち、
 空気、波長をもつ。

 いつもの自分にはない思いをさそう。

 読まないと、思いはない。

 思いの種類の少ない人になり、そのままに。

 そのままはこまるので、ぼくも読むことにした。》




「文学談義」・・

《すぐれた文学作品は、想像と思考の力を授けてくれる。

 人の心をつくる。

 人間の現実にはたらきかける。

 「文学は実学である」とぼくは思う。》




モンテーニュ『懐中日記』・・

「いつかできることはすべて、今日でもできる」







<目次>
数えてみれば
ひまわりと太陽
駅から歩く
読むので思う
文学談義
読者の声
無理
日記のようになれたら
静かな作品
サウナのことば〔ほか〕


荒川洋治「黙読の山」

みすず書房

2007年刊



 荒川洋治さんのエッセイ。


 タイトルの「黙読の山」は、

 「本の山」のように、黙読してよむべき本の山たち、と思っていたら、

 「山」の名前の読み方は、「やま」「さん」「せん」「ぜん」など、

 実に難しく、沈黙してしまう、というお話。





 草野心平の詩・・

 「ごびらっふの独白」の最初の二行


 「るてえる びる もれとりり がいく。

  ぐう であとびん むはありんく るてえる。」


 このかえる語の訳は、

 「幸福というものはたわいなくつていいものだ。

  おれはいま土のなかの靄のような幸福に包まれている」


 





文学史の名著・・

 高見順『昭和文学盛衰史』
昭和文学盛衰史 (角川文庫―名著コレクション)

 平野謙『昭和文学史』(筑摩叢書)



 伊藤整『日本文壇史』全18巻


 『近代日本の文学史』(カッパ・ブックス)



 成瀬正勝編『近代日本文学史』(角川全書)

  特に、「戯曲」の項すぐれている。


 小西甚一『日本文学史』


 福田清人『日本の古典文学史』(ポプラ社)
古典文学全集 (26)

 『国語小辞典』《学習必携小辞典》の一冊(新興出版社・啓林館)






≪本のなかみに感動するだけでは、本を愛する気持ちは十分には育たない。

 いずれ本から離れてしまう。

 なかみとは、はかないものなのだ。

 物として本を知ると、本への愛情が、生まれたあとも変わらない。

 持続する。

 一冊の本を、物として見つめることは、なかみを見つめる以上に、

 多くのものを与えるように思う。≫




<目次>
ここにあるもの
黒のマジック
文豪
黙読の山
二人
力のかぎり
可能性
世の中の世界
美しい砂
高見順〔ほか〕




荒川洋治「世に出ないことば」・・黒島伝治

みすず書房

1995年刊



 荒川洋治さんのエッセイ。



 黒島伝治・・香川県小豆島生まれ。農民小説からはじめたが、シベリア出兵の

 戦争体験を描いたシベリアもので知られた、短編作家。

 『黒島傳治全集』(全3巻・筑摩書房)

 「橇」(岩波文庫)より。


  
 「でも戦争をやっとる人はおれらだ。

  おれらがやめれゃ、やまるんだ。」

≪黒島伝治のシベリアものを読むと、真剣なことばと向き合うときだけに感じる、

 気高いもの、あたたかいもの、明るいものが心に浮かんでくる。

 荒れた風景はつづく。

 そのなかで生きる人のためのことばを、黒島伝治はとても早い時期から記していた。≫ 




現代日本文学大系 (56)





 宇野浩二・・

≪宇野浩二は文学への姿勢のきびしさによって「文学の鬼」といわれたが、

 その書き物はどうかすると子供のする話のような、

 でもおとなの味わいがしたたるような、

 どちらともいえる不思議なものだった。≫

 「一と踊」(ひとおどり)




 スペイン西部を縦断する「銀の道」・・

 全長820キロ。紀元前、はるかな昔、古代ローマ人が切り開いた道である。





 「行間はない」・・

 ≪・・どんな文章もしっかり読んでいけば行間は損zないしないのだ。≫




 「ゆっくり」・・

 ≪おそくはじめた人が、歴史を変える例は少なくない。≫

 ≪どうせ人より「おそい」と思うので、あくせくしない。

  年をとるとおぼえが悪いので、ちょっとした進歩もすなおによろこびに思える。

  これまでとはちがう世界を知るので気持ちが若くなる。

  また仲間もおとな。

  若いときのような競争心をもたずにすむ。

  「○○をはじめたよ」ということばは使うだけでも気持ちよい。≫





 アラン・ド・ボトン『旅する哲学』



<目次>

ぼくのめがね
土台
軽井沢
郵便番号簿と文学
青年の眠り
「才丸」へ行く
静かな人の夜
いま動いた
風景の時間〔ほか〕


荒川洋治「日記をつける」(岩波アクティブ新書)

岩波書店

2002年刊




 「日記をつける」とは、どういうことなのだろうか?


≪つけることは自分のためなのだ。

 自分のしたこと、していることがわかるのだ。

 明日が見えてくるのだ。

 日記のなかには、ぼくを育てる、お客さんの姿がある。≫



≪日記は、人に見せるものではないから、あったこと、思ったことを

 スイスイ書いていく。

 ことばをまちがえても、文章の道をまちがえても、気にすることはないのだ。≫


≪日記は、日記では終わらない。

 そこからいろんなものが、生まれるからである。

 エッセイや、詩になる。俳句にも、歌にもなる。小説になることもある。

 日記は、ときに作品へ向かう。自己実現への道に、つながっているのだ。≫





 本書で、あまた紹介された日記の中から、読んでみたいと思ったのは、

 意外にも、李舜臣の日記でした。

 
 李舜臣『乱中日記』・・

 文禄・慶長の役において、戦場で指揮を執りながら残した日記。

 日記の中には、出会った人を記録しているのですが、

≪現実の人間だけではなく、夢のなかの人物の名前を記しているのだ。

 この夢のなかの人物も、彼にとってはたいせつなものだった。

 夢にすがらなくてはならないほど苦しい毎日がつづいていたのだろう。≫

 
 大好きな、カルタゴの将軍、ハンニバル・バルカにも通じます。
 









<目次>
1 日記いろいろ
(絵日記
日記へ ほか)
2 日記はつけるもの
(「書く」と「つける」
日付と曜日 ほか)
3 日記のことば
(手書きの文字
はじめての日記 ほか)
4 日記からはじまる
(まず、つけてみる
夕立の二人 ほか)
5 あなたが残る日記
(一〇大ニュースを決める
東京の日々 ほか)

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